2009/07/01
外科医神経症闘症記 緊張性の手の震え克服への体験記2 夜明け前

「俺ってあがり症だな」そうつくづく感じた。
手術中の私の意識の集中どころは、当然患部ということでなければならない。
手・指先の繊細な感覚は手術する者にとって絶対的だ。
けれど、自分の手と腕ばかりに(病的に)神経が集中した。
きつくてたまらなかったし、イライラしたし、気になったら最後、意識をそこからはずすことが出来なかった。
腕以外のところに意識を向けようと必死になっていると、怖いことに注意力散漫になり、手術で大きなミスをしてしまうところだった。
無理矢理望むとおりのところに意識が向けることは出来なかった。
◆あるがまま、あるがまま、それができない
「集中しろ、落ち着け」と念じたら、逆に注意力が散漫し、緊張と焦りが高まった。
森田療法で教わった「あるがまま」も出来なかったし、自然体というものがどういうことかさえも思い出せなくなった。
リラックスを心がけても、リラックスや緩みの感覚がわからないのだ。
落ち着いているってどういうことだろう? あるがままって何だ?
あるところに意識を向けるという意識が、意識を向けちゃいけない部分(指先、手、腕)への集中をさらに強化した。
手術の腕は落ちに落ちた。
スピード、手際の良さ、また判断能力が壊滅的だった。
何より感覚が鈍っていった。
当然だ、私の繊細な感覚すべてが、手の震えを抑えるため一点に集中していたのだから。
本当の自分の腕はこんなんじゃないというプライドは高まったが、同時にジレンマと自信喪失が深まった。
昔は何も考えず、手術のことだけに集中していただけにショックだった。
なんでこんなことに俺は苦しまなければならないんだ! 他の医師は震えずにオペを遂行しているのに。
なぜ仕事に集中させてくれないんだ? 人の命がかかっていることなのに、なぜだ?
◆劣化していく手術の腕
過去に出来たことができなくなることの苦悩は計り知れない。
しかも私はどんどん上達していかなければならない年齢だったのに。
他の医師が自信と経験と熟練度を上げていくというのに、私ときたら自信をなくすだけだった。
心がふさぎ込んだ。
いらだったりもした。
手の震えのどうにもならなさ、震えてしまう自分、そしてなぜ俺だけがこんな目に合うのかというイライラ感。
常に神経過敏で、焦りとイライラと絶望、それだけの繰り返しだった。
私の人生がそのためだけに存在していることを考えると、やるせなかった。
生きるってなんなんだろう? なぜ私は苦労してこんな仕事をしているんだろう?
すべてがわけがわからなくなっていった。
◆これさえなければ 憂鬱な日々と先の見えない闘い
楽しい思いもこのころからできなくなってしまった。
すべてがつまらない。やる気が出ない。
楽しいことが別にあっても、いつも手術のこと、手の震えのことが気になり、そちらに楽しい気持ちもひっぱられ、すべてが味気ないものになっていった。
つまらない人生に陥った。
これがなければ、俺はなんてすばらしい人生だったろうと、ジメジメと思いとらわれていた。
これさえなければ、誰よりもいい人生なのに!
これがあるばっかりに!
このこれさえなければという強い思いが、ますます私の症状を悪化させていった。
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